IFRポジションペーパー

次世代スキル

~今もこれからも、全従業員が自動化のメリットを享受するために~

発表:2020年11月

発行:国際ロボット連盟(ドイツ・フランクフルト)

エグゼクティブサマリー

多品種少量生産が求められる中、製造業者はそれに費用対効果が高い形で応えるために、自動化を更に進め、変種変量生産への移行を始めている。自動化戦略において、ロボットが果たす役割はますます重要なものとなっており、2013年から2019年にかけて、ロボットの設置台数は年間平均11%増加した。


自動化によって人間の仕事がなくなることはないが、より高度な能力が必要で、より高い賃金が得られる職種に求められるスキルは変わってきている。製造現場の従業員は今後、大部分が同じ作業の繰返しである肉体労働よりも、技術的な作業により多くの時間を費やすようになる。単に作業を遂行することから、様々な作業や工程を監督・管理するようになるのである。そして、技術や製造工程に関する知識を持つ従業員や各分野の専門家を含む、複合的なチームで働くことになる。


ロボティクスの進歩は、今後10年の間に、製造業における業務とそれに必要なスキルの在り方を大きく変えていく。10年後、製造現場のオペレータの半数以上がロボットと働くことになると予測されている。ロボットは、単調で、非人間工学的な作業の補助をすることになり、機械への供給作業、重量部品の持ち上げ・把持作業、接着剤塗布や表面研磨といった高度な正確さを必要とする繰返し作業などがその例である。多くのオペレータが、ロボットのプログラミングや監視方法について学ぶことになる。ロボットインタフェースの進歩は、プログラミングの知識がないオペレータでも、直観的かつ迅速にプログラミングが可能なアプリケーションが増えることを意味する。


製造業において自動化が進み、ロボットの導入が加速するにつれ、新たな興味深い役割が生まれている。例えば、以下のようなものがある。

  • スマートファクトリー・マネージャー:自動化されたサプライチェーン全体の円滑な運営の責任を負う。
  • ソリューション・プランナー:顧客が抱える課題に対処する計画の立案を担う。
  • 製造技術エンジニア:製造ライン全体のリソースの統合、再構築、監視、維持を担う。
  • ロボット・チーム・コーディネータ(RTC):ロボティクスを製造・流通工程に融合させる業務プロセスを立案し、人間とロボットが協働できるように訓練を実施する。

また、高い専門知識が要求される専門家の新たな例としては、ロボットデバッガやビジョンシステム技術者などがある。


製造業者は、批判的思考、問題解決力、人材マネジメント力といったヒューマンスキルをより重視するようになる。多くの製造業者にとって、トップダウンで企業文化の転換を図ることが必要になる。そうすることで、現場や遠隔で働く従業員のアジャイルチームが、互いに連携しながら自主的に課題を見つけ、解決策を見出す環境が実現できる。また、生産効率を最大化する新たなソリューションを開発し、試すこともできるようになる。


製造業者は現在、従業員の採用に苦戦している。あらゆる技能レベルにおいて、要件を満たす労働者が不足しており、何らかの対応策を講じない限り、この状況は続くと予測されている。製造業で新たに求人が増加するのは、高度な技術を要する職種に限られる。しかし、ベビーブーム世代(1944年~1964年に生まれた世代)が定年退職を迎えると、高い技術を必要としない職種や、中程度の技術を要する職種に従事する人員が不足することになる。欧州では、2016年から2030年にかけて、1,000万弱の工場で機械オペレータと組立工が不在となると見込まれ、米国では、2022年までに45万人の溶接工が不足すると予測されている。


各利害関係者による対応が求められている。政策立案者は、国家競争力や地域の競争力を高める原動力として、自動化と技術導入を推進する必要がある。製造業者、教育機関、行政は、若年層だけでなく、熟年労働者にとっても魅力的な、製造業におけるキャリアパスを示し、同時に、従業員が生涯にわたって学ぶことのできるプログラムを開発する必要がある。現役の熟年労働者に対する再教育プログラムの構築は極めて重要である。製造業者と教育機関は、徐々に変化する技術スキルへの要求にカリキュラムを合わせるために、連携して作業を進める必要がある。製造業者は、現役世代への再教育と、スキルよりも将来性を重視した採用に、これまで以上に取り組む必要がある。ロボットメーカは、高度なスキルを有しない従業員でも確実にロボットが扱えるように、引き続きプログラムインタフェースの簡素化を進める必要がある。従業員は、ロボットを活用した業務プロセスの立案に参加する必要がある。

国際ロボット連盟(IFR)が作成したポジションペーパー(英文)の、エグゼクティブサマリーの日本語参考訳を掲載しています。
なお、原文と日本語参考訳との間に齟齬がある場合は、原文の内容が優先されます。
※原文(Positioning Paper: Next Generation Skills – Enabling today's and tomorrow's workforce to benefit from automation –)はこちらからダウンロードいただけます(要登録)。